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不貞行為と婚姻関係の破綻について

弁護士 裵 悠

 

不貞行為に対する慰謝料請求の事案では、時折、相手方から「夫婦関係が破綻していたので不貞行為の慰謝料は発生しない」などと反論されることがあります。

そもそも、夫婦関係が破綻している場合には不貞行為をしても慰謝料は発生しないのでしょうか。

 

1 不貞行為でなぜ慰謝料?

そもそも、婚姻中の夫婦が不貞行為をした場合、不貞行為をした夫婦の一方及び不貞の相手方が慰謝料を支払わなければならないのは、なぜでしょうか。仮に、夫婦の不貞した一方当事者(有責配偶者)をA、Aの不貞相手をBとし、夫婦のうち不貞された他方当事者をXとします。

夫婦は、法律上貞操義務を負うため、Aが不貞行為をした場合には、Xには当該義務に違反されたことによる精神的苦痛が発生します。また、BとXとの関係でいえば、Bは、Xの「平穏な婚姻生活を営む権利ないし法的利益」を侵害したことになり、Xにはそのような権利ないし法的利益を侵害されたことによる精神的苦痛が発生します。

このように、AとBが不貞行為を行った場合には、AとX、BとXのいずれの関係においてもXに対してそれぞれ精神的苦痛を生じさせたことになります。この「精神的苦痛」を慰藉するために、不貞をしたAとBはXに対し慰謝料を支払わなければならないのです。

 

2 婚姻関係破綻の抗弁

しかしながら、すでにAとXの婚姻関係が破綻していた場合はどうでしょうか。婚姻関係がすでに破綻している場合、AとXの間には相手方に対して貞操を期待するような夫婦間の人格的な結びつきは失われているため、仮にAが貞操義務に違反していたとしても、Xには当該義務に違反されたことによる精神的苦痛は発生しないことになります。また、BとXの関係においても、夫婦関係が破綻している場合にはXの「平穏な婚姻生活を営む権利ないし法的利益」はすでに失われているため、精神的苦痛は発生しないということになります。

このように、婚姻関係が破綻している場合には精神的苦痛が発生しないことになるため、慰謝料も発生しないことになります。

 

3 「婚姻関係の破綻」が認められるケース

そもそも「婚姻関係の破綻」とはいかなる状況を指すのでしょうか。夫婦は、法律上、相互に同居・協力・扶助の義務を負っています(民法第752条)。「婚姻関係の破綻」は、夫婦(の一方)が上記義務を果たさず、そのような状況を修復する意思や関係修復の見込みがない状態をいいます。

それではいかなる事情があれば「婚姻関係の破綻」が認められるのでしょうか。

最終的には個別の事案ごとに、事情を総合的に考慮して婚姻関係破綻の有無を判断することになりますが、例えば以下のような事情があれば婚姻関係破綻の有無についての重要な考慮要素となるでしょう。

 

⑴ 長期間の別居

離婚に向けた長期間の別居がある場合には、婚姻関係の破綻が認められやすくなります。どの程度の期間が必要かについては事案によりますが、同じ別居期間1年間であっても、婚姻期間が10年の夫婦と3年の夫婦では後者の方が婚姻関係の破綻が認められやすくなるでしょう。

 

⑵ DVやモラハラ

DVやモラハラは、民法上離婚事由の一つになります(民法第770条1項5号)。そのため、夫婦間でDVやモラハラがある事案では、婚姻関係の破綻が認められやすいといえます。

 

⑶ 過去の離婚協議

過去に離婚協議を行っている場合には、互いに婚姻関係を修復・維持する意思がないとして婚姻関係の破綻が認められやすくなります。ただし、過去の離婚協議後に夫婦関係が修復され夫婦生活が継続されてきた、という事情がある場合には婚姻関係の破綻は認められにくいでしょう。

 

⑷ 性生活の不一致

夫婦関係は、性的結合を基本とした人格的な共同生活関係であるとされます。そのため、正当な理由がない性交拒否、あるいは異常性欲等によって夫婦生活が維持できない場合には、婚姻関係の破綻が認められることがあります。

 

4 最後に

はじめに述べた通り、慰謝料請求をした不貞相手などから「夫婦関係が破綻していたので不貞行為の慰謝料は発生しない」などと反論されることがありますが、実務上、このような「婚姻関係破綻の抗弁」が認められるか否かは微妙なケースが多く、法律の専門家のサポートが必要になるケースが多いです。

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