弁護士 金 愛子
4月になりました。新しい生活が始まった方も多いのではないでしょうか。
今月は、新入社員に対する試用期間について取り扱ってみたいと思います。
1.試用期間とは
(1)労働契約の成立時期
企業が人材を採用する際、①内定、②入社(試用期間)、③本採用、といった流れをとるケースが多いと思います。この流れの中で、企業と従業員との労働契約(雇用契約)は、①内定の時点で既に成立していることに注意が必要です。
最高裁は、内定通知を出した時点で、「入社予定日を就労の始期とする解約権留保付きの労働契約が成立」するとしています(大日本印刷事件・最判昭和54年7月20日等)。
(2)試用期間とは
試用期間とは、いわば「見習い」期間として、その期間中、従業員の業務能力や適格性を評価し、本採用をするかどうか判断するために設けられる入社後の一定期間をいいます。法的性質は、内定と同様、「解約権留保付きの労働契約」です。
試用期間をもうけるには、就業規則または労働契約書に明確に記載しなければなりません。また、試用期間を延長することがある場合には、その旨も就業規則または労働契約書に記載する必要があります。
2.本採用拒否について
試用期間中に、面接時には分からなかった従業員の問題点が浮かび上がることがよくあります。このような場合、本採用を拒否するためには、次に述べる通り、注意して手続きをふむ必要があります。
最高裁は、本採用を拒否する基準について、本採用後の解雇よりも若干緩やかに介しているものの、「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用期間中の勤務状態等により、当初知ることが出来ず、また知ることが出来ないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」(三菱樹脂事件。最判昭和48.12.12)としています。
また、業務不適格・勤務態度の不良で本採用を拒否する場合、裁判所は、会社側に対し、十分に指導したか、手段(教育)を尽くしたか、という点を重視しています。
仮に、試用期間中の従業員の業務に問題があった場合、上司は適宜注意することが必要ですが、その注意方法については、①メール、②日報などの文書、をお勧めします。口頭だと、「聞いていない」と言われたり、口調によってはイジメだと勘違いされるなどのリスクもありますが、文章にすることで、注意の趣旨が明確化され、かつ、注意したことが可視化するからです。文章にすることで手間はかかりますが、万が一、訴訟になってしまった場合には、有利な証拠の1つになり得ます。
他方、従業員にとっても、冷静に自分の問題点を把握でき、改善するきっかけにもなるというメリットがあります。
従業員の問題点を注意した後、そのまま放置することはおすすめできません。問題点が改善されたかどうか、それを確認することも重要です。
何回注意しても改善されない場合には、本採用を拒否してもやむを得ない、ということになります。
3.最後に
本採用拒否というと、少し後ろ向きのテーマのように感じますが、試用期間とは、従業員の適格性などを見極める重要な制度です。
もし貴社に試用期間の定めがない場合には、試用期間制度を新しく作ることを検討してみてはいかがでしょうか。