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養育費の滞納に対する強制執行の手続きと、そのために必要な債務名義について

養育費の支払が滞ってしまった場合、合意した内容を債務名義になる形で残していれば、相手方の意向に関係なく、強制的に回収できる「強制執行」をすることが可能です。

 

1 養育費の支払合意と強制執行

離婚後は特定の額の養育費を支払ってもらうことを合意したのに支払いがない、あるいは、最初は支払っていたのに支払いが止まってしまった、というケースは少なからずあります。この場合、合意した内容をどのような形で残しているかにもよりますが、強制執行(支払う側の意向に関係なく、強制的に回収ができる手続き)が可能であるうえ、2020年の民事執行法の改正により、以前よりも養育費を回収する側に有利な条件で強制執行ができるようになりました。以下、その内容につき、ご説明いたします。

 

2 養育費の強制執行をするために必要な債務名義(調停調書、審判書、判決書、和解調書、公正証書)

「養育費」とは、子どもの監護や教育のために必要な費用のことです。養育費に関する基礎知識や、金額の算定方法については、過去のコラム

https://www.legal.ne.jp/column/orbis22014/)をご覧下さい。

養育費の支払につき、強制執行をするためには「債務名義」となる書類が必要です。

離婚調停の際に養育費の支払を求めた場合や、離婚後に養育費調停を申立てた場合、調停で話し合いがまとまったときには調停調書が作成されますし、話し合いがまとまらずに調停から審判に移行した場合、裁判所が養育費の相当な額を決めて、その支払を相手方に対して命じる審判書が作成されます。調停調書や審判書は債務名義となりますので、これらがある場合は、強制執行が可能です。

また、離婚訴訟が提起され、離婚を認める判決がなされた際に、養育費の支払も認められた場合には、この判決書も債務名義になりますし、判決がなされる前に、当事者間で和解が成立することもあり、その際には和解調書が作成されるところ、和解の内容に養育費の支払い及びその額が定められている場合は、和解調書も債務名義になります。

しかし、協議離婚が成立した際に、養育費の支払やその金額を口約束しただけ、あるいは、当事者間で契約書や合意書を作成しただけでは、残念ながら、それだけでは強制執行することはできません。

強制執行を可能にするためには、合意した内容を公正証書(公証役場にて公証人に作成してもらう文書)にしており、かつ、その公正証書の中に、強制執行認諾文言(養育費の支払いが滞ってしまった場合、強制執行されても構わない、と支払う側が認める内容)があることが必要です。強制執行認諾文言がある公正証書は債務名義になります。

 

3 養育費の強制執行の具体的内容

具体的に、強制執行が可能な財産としては、大まかには、①不動産、②給料、預貯金等の債権、③動産、がありますが、一番実効性が高いのは、②給料、預貯金等の債権です。債権の中でも、支払う側がサラリーマンで給料を得ている場合は、1回の強制執行の申立てで、以後、毎月、会社から支払う側に支払われる給料のうち一定額を、会社から直接回収することが可能です。ただ、給料債権は、労働者の生活保障という観点から、通常の強制執行であれば、手取り額の4分の1しか強制執行できません。例えば、月額手取り28万円の給料を得ている人の場合、強制執行によって直接回収できるのは、その4分の1の月額7万円だけなのです。しかし、以下のとおり、2020年の民事執行法の改正により、養育費の支払の場合は、回収する側に有利な条件で強制執行できるようになりました。

 

4 民事執行法改正により、支払を受ける側に有利になった内容

2020年の民事執行法の改正により、養育費の場合、強制執行できる範囲は、給料の手取り額の2分の1になりました。上記の月額手取り28万円の給料を得ている人の場合、2分の1の月額14万円を強制執行によって直接回収することができます。また、給料の手取り額が66万円を超える場合は、33万円を支払う側に残し、残額は全て直接回収することが可能になりました。例えば、月額手取り80万円の給料を得ている人の場合、月額47万円まで、強制執行により直接回収することができるのです。

 

5 養育費の強制執行についてのまとめ

以上のとおり、養育費の場合、有利な条件で強制執行が可能となりましたが、ご本人で強制執行の手続きをしようと思えば、その準備のために相当程度時間もかかりますし、強制執行した給料を会社が直接支払ってくれるとも限りません。弊所では、離婚等のご依頼を受けていない方の、養育費の強制執行手続きのみのご依頼も受けております。

お気軽に弊所までご相談下さい。

 

弁護士 成末奈穂

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