弁護士 金愛子
今も昔も、様々な事情で婚姻届を提出しない(できない)カップルは、多数いらっしゃいます。
しかし、法律婚ではない「内縁」「事実婚」とは、そもそもどのような状態なのでしょうか。同棲カップルとは、どのように違うのでしょうか。また、法律婚とはどのように違うのでしょうか。法律婚ができない同性カップルも内縁として保護されるのでしょうか。本稿では、簡単ですが、上記の点について説明したいと思います。
1.「内縁」と「事実婚」
民法739条1項は、「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。」と定めています。したがって、法律上、婚姻関係が有効であるためには、婚姻の届け出が必要です。
しかしながら、明治民法の下では、婚姻には戸主の同意や父母の同意等が必要だったため、婚姻届を出したくても出せないカップルも多く存在しました。このように、当事者に責任がない理由で婚姻届が出せないカップルを内縁関係と表現し、保護する必要性から「準婚理論」という法理論がうまれました。
しかしながら、現在では、夫婦別姓を実践するため等、意図的に婚姻届を提出しないカップルも多く存在します。このようなケースは、1970年代頃から「事実婚」という表現が用いられるようになりました。
学術的には、「内縁」と「事実婚」の違いに着目して、その法的保護について様々な対立がありますが、本稿では割愛し、「内縁」にポイントを絞って解説したいと思います。
2.「内縁」の判断基準/単なる同棲カップルとの違い
裁判所は、①当事者間に婚姻の意思はあるか、②夫婦として共同生活をしているか、という基準を用いて実質的に内縁関係にあるかどうかを判断しています。
本人の内心なので、客観的な事情から「婚姻の意思があるかどうか」を判断することになります。例えば、結婚式を挙げている、住民票の続き柄が「妻(未届け)」になっている、住民票の世帯が同一である、お互いの親戚との付き合いがある、等の具体的な事情を確認する必要があります。
(2)夫婦共同生活
客観的な事情から、「夫婦として、共同生活をしているか」を判断することになります。具体的には、認知した子どもがいる、家計(お財布)を一つにして共同生活を営んでいる、といった事情です。
3.法律婚との比較
「婚姻届」を出していないだけで、その他の事実関係は、法律婚も内縁もほとんど変わりはありません。
しかしながら、法的効果については、以下に述べる通り、異なる場面があります。
最大のポイントは、相続です。法律上の配偶者は、常に相続人になりますが(民法890条)、内縁・事実婚の配偶者は相続人にはなりません。ただし、事情によっては内縁の配偶者に酷な状況があるため、死亡した配偶者の持ち家についての居住権や(最三小判昭和39年10月13日民集18巻8号1578頁)、死亡した配偶者と住んでいた借家については相続人が承継した賃借権の援用を認める等(最二小判昭和42年4月28日民集1巻155頁)、救済する場面もあります。
内縁の配偶者に遺産を残したい場合には、生前贈与をしたり、遺言書を作成する必要があります。
また、内縁関係と認められれば、法律婚と同様、貞操義務や同居・協力・扶助義務を負います(民法752条)。したがって、内縁の配偶者が不貞行為を行った場合、配偶者や不貞の相手方に慰謝料請求が可能です。
内縁関係の解消に際しては、法律婚の離婚とパラレルに考えることができます。具体的には、財産分与(民法768条)等です。
4.同性カップルについて
現時点で、日本は法律上、同性婚を認めておりません。したがって、同性カップルは法律婚をすることが出来ません。
同性カップルをめぐる法制度についての議論は進行中ですが、昨今、注目すべき裁判がありました。
具体的には、7年近く同居し、同性婚が認められているアメリカで婚姻登録証明書を取得し、日本で結婚式を挙げた同性カップルの一方が不貞行為を行ったところ、関係が破綻したため他方のパートナーが慰謝料等を求めた事案です。
第一審の宇都宮地裁真岡支部は、原告の請求を認め、第二審の東京高裁も「婚姻に準じる関係だった」として、第一審を維持しました。そして、令和4年3月17日付で、最高裁も裁判官全員一致の結論で、原告の請求を認める決定を下しました。
同性カップルにも内縁関係の法的保護が及ぶことを明らかにしたという点で、注目すべき決定といえます。
5.まとめ
現在でも、婚姻届を出せない(出さない)カップルは多くいらっしゃいます。この多様性が重視される現代において、法制度がまだ追いついていないというのが現状だと思います。弁護士として、サポートできる場面もあると思いますので、何かお困りのことがありましたら、弊所までお気軽にお問い合わせください。