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遺言制度の見直し~利用しやすい自筆証書遺言へ

弁護士 笹沼永浩

1.初めに

平成30年7月6日、民法のうち、相続法の本格的な改正が行われ、併せて、自筆証書遺言の保管制度を定める法律が新設され、遺言制度の重要な変更があり、特に他の方式と比べて簡便で利用のしやすい自筆証書遺言が、さらに利用のしやすいものとなりました。

 

2.今までの自筆証書遺言のメリット・デメリット

民法改正前の自筆証書遺言は、他の方式の遺言に比べて簡便で、費用もかからないというメリットがあります。

一方で、改正前民法においては、⑴遺言書のすべてを自ら書くという「自署性」を厳格に要求しており、自筆証書遺言の簡便さが損なわれていました。

また、⑵遺言書を保管する仕組みがないために、遺言書の紛失、破棄、隠匿、改ざんの可能性が小さくないことも、デメリットとしてとらえられてきました。

今回の改正では、上記のデメリットへの手当てがなされたとして注目されています。

 

3.⑴への手当て

⑴の厳格な自署性は、遺言をしようと考えた高齢者等にとって、かなりの労力を伴うことや、単独で文字をかけない遺言者が、人生の最終局面で自己の意思を遺言に残そうとする場合に、遺言自体が無効となる可能性をはらむもので、自筆証書遺言の利用を妨げる要因となっていました。

そこで、令和元年1月13日施行の改正民法(相続法)では、自筆証書遺言をする場合において、遺言事項と添付書類である財産目録とに分け、前者については、従前どおりに自署性を要求する一方、後者については、自署でなくともよいこととなりました(民法968条2項 なお、目録が自署でない場合には、目録の毎葉に署名捺印をする必要があります)。つまり、財産目録については、ワープロ書きによる作成が認められるだけでなく、遺言者以外の者による代筆や不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写し等を添付した上で、それを目録として使用する方法も認められることになりました。遺言者の負担がかなり軽減されたといえます。

 

4.⑵への手当て

また、これまで、自筆証書遺言には、公的な機関による保管の制度がなかったことから、遺言書作成後、遺言書を紛失したり、相続人等によって隠匿もしくは改ざんされたりするおそれがありました(実際には改ざんがなされていなくても、納得のいかない相続人から「偽造だ!」と主張され、紛争化してしまうこともあります)。また、法律上、相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」相続を承認するか、放棄するかを決めなければなりませんが(改正前民法915条1項)、相続開始後速やかに遺言の有無及び内容を確認することが困難なことが多いという問題点がありました。さらに、被相続人が自筆証書遺言を作成していたにもかかわらず、相続人が遺言書の存在を把握することができないまま遺産分割が終了し、あるいは遺言書がない前提で進められた遺産分割協議が、遺言書が発見されたことで水泡に帰すおそれがあることなども問題点として指摘されていました。

このような問題意識から、平成30年7月6日、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「遺言書保管法」といいます)が成立しました。遺言書保管法の概要は以下のとおりです。

まず、遺言書保管法の対象となる遺言書は、上記の民法968条に定める自筆証書遺言に限られています(遺言書保管法1条)。

遺言書の保管の申請は、遺言者本人が行い、本人確認をしなければならないという手間はありますが、原本については遺言者の死亡後50年間、画像データは遺言者の死亡後150年間もの長期間保管され、遺言書の紛失、破棄、隠匿、改ざんといったことを防ぐことができます。

加えて、遺言者が亡くなった後、自身が相続人や受遺者となっている遺言書が遺言保管所へ預けられているかを確認することや、仮に保管されている場合にどのような遺言書が保管されているかを示した証明書の交付を請求することができるようになりました。さらに、相続人自ら出頭した上で、閲覧の請求をすることもできます。また、遺言者が死亡した際、遺言書保管所から、あらかじめ遺言者が指定した1名に対して、遺言書が保管されていることを通知することもできます。遺言者の死亡後、スムーズに相続手続きに移行できるようになったといえます。

 

5.最後に

以上のとおり、自筆証書遺言は、従前よりもかなり使いやすい制度となったといえます。

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