弁護士 金田正敏
1 労働審判手続とは、解雇や給料の不払など、個々の労働者と事業主との間の労働関係のトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための手続です。
裁判所で行われる手続きという意味では、通常の訴訟手続に似ている部分もありますが、大きく違う部分もあります。以下では、通常の訴訟手続との比較を通じ、労働審判手続きの特徴を解説していきます。
2 まず、大きな違いとして、解決までのスピードの違いがあります。労働審判手続きは、原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため、迅速な解決が期待できます。
労働審判手続きは、平成18年から令和元年までに終了した事件について、平均審理期間は77.2日であり、70.5%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。一方で、通常の訴訟手続きは、審理の期日には制限がなく、民事訴訟の一審の審理期間は平均10カ月弱、1年以上かかるケースも多いと言われていることと比較すると、労働審判の解決までの迅速性が分かります。ただし、労働審判では、調停がまとまらず、言い渡された審判に不服がある場合、異議を申し立てることで、通常の訴訟に移行してしまいます。労働審判手続きで、お互いに主張立証をしているので、通常の訴訟に移行したとしても、ある程度の迅速性はあるといえますが、異議によって審判の効力がなくなってしまうことは、労働審判手続きの特徴のひとつです。
次に、調停を行うことで、訴訟手続きよりも、事案の実情に応じた柔軟な内容の審判をすることが可能です。そして、労働問題の専門家が複数関与することにより、専門性を有するという特徴があります。
3 上記のように、労働審判には、通常の訴訟と比較して、専門性、迅速性、解決の柔軟性というメリットを挙げることができますが、労働審判手続きでは扱うことができない種類の事件もあります。
4 労働審判手続きにおいて扱えない類型としては、①パワハラやセクハラを問題とし、加害者個人を相手にする場合です。労働審判では、個人を相手どって個別に慰謝料などの損害賠償を請求することができません。
また、②原則として、公務員による労働審判はできません。労働審判はあくまで民事の紛争を対象としていて、公務員と国や自治体との争いを対象にしていないからです。
③労働組合と会社との争いを労働審判とすることもできません。労働審判手続きは、個々の労働者が利用できるものであり、労働組合が当事者とはなれないからです。
5 以上のように、労働審判手続きは、解雇や賃金の不払いなど、個々の労働者の抱える紛
争を、迅速に、柔軟に解決することを目指す手続きということができますが、専門的知識を必要とします。特に、申し立てられた会社側は、第1回の期日までに、反論や証拠を迅速に準備しなければならず、限られた期間に大きな負担を負うことになります。もし、お手元に労働審判の申立書が届きましたら、できだけ早く、弁護士にご相談することをお勧めします。それ以外にも、労働審判を申し立てたい、あるいは申し立てられた、という場合には、当事務所までご相談ください。