韓国における外国の懲罰的損害賠償判決の執行のサムネイル

韓国における外国の懲罰的損害賠償判決の執行

外国法事務弁護士(原資格国:大韓民国) 鄭源一

 

多くの国は、外国裁判所からの判決も一定の要件を満たす場合、国内判決と同じ効力を承認し、執行も許容しています。韓国も同様に、外国判決の承認・執行制度がありますが、その要件は、①国際裁判管轄が認められること、②送達に問題がないこと(公示送達を除く)、③韓国の善良な風俗や社会秩序に反しないこと、④当該国との相互保障があることです(韓国・民事訴訟法第217条第1項)。
上記の要件③との関係で多く問題となってきたのが、外国の懲罰的損害賠償判決です。懲罰的損害賠償とは、加害者に対する制裁や将来における同様の行為の抑止を目的として、実際に生じた損害以上の賠償を命ずるものです。

これまでの韓国の裁判所においては、韓国の損害賠償制度の根本理念は、被害者が実際に被った損害を補てんして、損害が発生する前の状態に回復させるものなので、実際に生じた損害の賠償を超えて制裁のための賠償を命じることは損害賠償制度の基本理念と社会秩序に反するというものでした。日本の裁判所においても、外国の懲罰的損害賠償判決は公の秩序に反するものとして承認を拒否しています。
ところが、韓国の大法院(日本の最高裁判所に該当)は、2022年3月11日、米国ハアイ州の裁判所が命じた懲罰的損害賠償判決を韓国において承認および執行することは、韓国の善良な風俗や社会秩序に反しないと判決しました。大法院は、韓国において、2011年から特定分野における懲罰的損害賠償を許容する立法がなされてきたことを指摘した上で、損害補てんの範囲を超える損害賠償を命ずる外国判決の原因となった行為が、少なくとも韓国において損害補てんの範囲を超える損害賠償を許容する個別法律の規律領域に属する場合には、その外国判決の承認と執行を許容できると判示しました。
当該判例の事案は、AがBの独占的食料品輸入・販売契約を妨害し、不公正な競争方法を用いたという理由で、米国ハワイ州法によりBが被った損害の3倍の賠償を命じたハワイ州判決に対し、Bが韓国の裁判所にその判決の執行を求めた事件でした。大法院は、ハワイ州判決が損害賠償の原因とした行為が韓国の「独占規制及び公正取引に関する法律」の規律対象に該当することに注目し、「独占規制及び公正取引に関する法律」も実際の損害額の3倍以内の損害賠償を許容する条項を設けていることを理由として、実際の損害額の3倍の損害賠償を命じたハワイ州判決について、韓国内における執行を認める判決を下しました。

なお、韓国においては、2011年に初めて「下請取引の公正化に関する法律」において親事業者の不当な行為により発生した損害の賠償に関して、実際の損害の3倍を限度とし、損害の補てんの範囲を超える損害賠償制度を導入しました。続いて、「独占規制及び公正取引に関する法律」においても、事業者の不当な共同行為等に対し実際の損害の3倍を限度とする懲罰的損害賠償規定を導入しました。さらに、個人情報、勤労関係、知的財産権、不正競争行為及び営業秘密保護、消費者保護等の分野における個別法律の改正により、一定の行為類型について3倍から5倍を限度とする懲罰的損害賠償損害制度を導入しています。

上記の韓国における大法院判例にもかかわらず、韓国の裁判所による懲罰的損害賠償判決が日本において承認・執行されないという従来の実務には変動ありません。そして、現在、日本には懲罰的損害賠償制度が存在していないので、日本の裁判所からの懲罰的損害賠償判決の承認と執行が韓国で問題になることも当分はなさそうです。
もっとも、例えば、日本企業が韓国企業を相手に米国の裁判所から懲罰的損害賠償判決を受けた場合、以前のように懲罰的損害賠償という理由だけで執行が拒否されることはなくなったといえます。韓国において懲罰的損害賠償制度が施行されている法律領域に属するのであれば、他の形式的な要件を満たすことを前提に、外国で得た懲罰的損害賠償判決について韓国でも承認と執行が可能になります。

日本と韓国はもちろん、その他の国の判決についても、国際的な承認および執行についてご相談が必要な場合には、当事務所までご連絡下さい。

30分無料 Zoom 法律相談

特定分野について、
初回30分無料の法律相談を実施しています。

詳細を見る

お問い合わせ

東京事務所
受付時間 月~金 9:00~18:00
大阪事務所
受付時間 月~金 9:00~18:00

お問い合わせフォーム