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研修中の賃金について~労働時間の基本~

弁護士 金愛子

 

春になり、街には新入社員とみられる方の姿が多く見かけられるようになりました。試用期間や研修期間をもうける企業も多くみられます。また、アルバイトであっても研修期間をもうけるところもあります。

企業によっては、「事前研修」という名前で、本採用前に研修を行うものの、その期間は「無給」とする場合もあるそうですが、このような取り扱いは許されるのでしょうか。本稿では、給与を支払うべき「労働時間」について、おさらいをしたいと思います。

 

1.「労働時間」とは

 

研修期間であっても、それが「労働時間」と評価される場合には、会社は従業員(もちろんアルバイトも含みます)に給与を支払う義務があります。

それでは、「労働時間」とは、どのようなものでしょうか。この点、最高裁は、以下のような判断基準を示しています。

 

〇労働時間とは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、労働契約や就業規則等により決められるものではない。

(三菱造船所事件、最一小判平成12年3月9日民集53巻3号801頁)

 

つまり、「研修期間は無給である」という契約を結んだとしても、「研修期間」が「使用者の指揮命令下に置かれたもの」と評価されるのであれば、給与が支払われることになります。

 

2.「指揮命令下」とは

 

それでは、使用者の指揮命令下に置かれたもの、とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。「業務命令」があれば、明らかに指揮命令下にある「労働時間」と考えられますが、明らかな「業務命令」がないような事例、たとえば仮眠時間であっても、「労働時間」と評価されるケースもあります(最高裁平成14年2月28日;大星ビル管理事件、京都地裁平成12年12月22日;日本郵便逓送事件)。

裁判所は、たとえ仮眠時間であったとしても、完全に業務から解放されておらず、場所的時間的にも拘束されている場合には、「休憩時間」ではなく「労働時間」と判断しています。他方、通勤時間や休憩時間は「労働時間ではない」というのが裁判例の傾向です。

 

3.研修期間は「労働時間」か?

 

それでは、研修期間は「労働時間」といえるでしょうか。

まず、「研修」が義務付けられている場合には、会社による業務命令(指揮命令下におかれるもの)となりますので、「労働時間」となります。

他方、「研修」への参加が完全に任意である場合や「研修」の内容が業務に関係ない場合には、指揮命令下におかれているとはいえませんので、「労働時間」にはならないと考えられます。なお、「研修」への参加は任意という建前になっていても、参加しなければ不利益を被る場合(例えば、先輩社員の仕事を見学するという研修で、その研修に参加しなければ当該仕事を担当することができない等)には、実質的に「労働時間」と評価されるケースもあります。

 

4.まとめ

 

一口に「研修期間」といっても、個別具体的な事情により、「労働時間」に該当するか否かが変わってきます。

「労働時間」に該当するか否か、については多くの裁判例の蓄積がありますが、様々な具体的事情をもとに評価されますので、簡単に判断できるものとはいえません。

弊所は多くの労働事件を取り扱っておりますので、もし、会社の運営上、労働時間の考え方や管理について、何か不安点等が発生した場合には、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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