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法人格否認法理の逆適用

外国法事務弁護士(原資格国:韓国) 鄭源一

株式会社は、株主と独立した別個の権利主体であり、会社は株主の債権者に対して責任を負わず、株主も会社の債権者に対して責任を負わないのが原則です(いわゆる有限責任)。もっとも、事案によっては、会社とはいっても名ばかりであって、実際は法人の背後にある者の個人営業に過ぎなかったり、背後の個人への法律適用を回避するための手段として法人格を利用したに過ぎなかったりするような場合には、例外的に法人格の独立性を否認し、背後である個人に対し会社の責任を追及することができます。これを法人格否認の法理といいます。

 

法人格否認の法理は、主に米国で形成・発展されてきましたが、ドイツや日本でも認められています。韓国においても、信義則と権利濫用あるいは正義・衡平を理由として、法人格否認の法理が認められています。

 

こういった法人格否認の法理とは、会社の責任を会社の背後にある者(株主又は実質的支配者)に追及する法理ですが、その逆のこと、すなわち背後者の責任を会社に追及することも可能か否か(法人格否認法理の逆適用の問題)について、韓国おいて以前から議論になっていました。

 

これを肯定する見解は、法人格否認の法理は、正義・衡平の観点から会社と株主を同一視するものであるため逆適用を否認する理由がないという立場です。一方、これを否定する見解は、逆適用が問題になるケースにおいては、債権者は背後者が保有している会社株式を差し押さえることが可能であるため、逆適用を肯定すべき実益が認められないという立場です。

 

ちなみに、米国カリフォルニア州の場合、法人格否認法理の逆適用自体は認めるが、実際には一人会社や家族会社についてのみ適用されると解釈されています。問題になった背後者とは無関係な株主や会社債権者の利益を侵害する可能性があるためです。ドイツは、逆適用を否定するのが多数説といわれています。その根拠も、会社の財産は会社の債権者のために維持されなければならないからとされています。

 

この問題に対し、韓国の大法院が、法人格否認法理の逆適用を肯定したといわれる判決が2021年に下されて話題になりました。事案は、個人営業をしていた債務者が既存営業と同じ事業をする会社を設立し、営業資産すべてを新設会社に譲渡したケースでした。大法院は、下記のとおり、資産譲渡に正当な対価が支払わなかった点と、新設法人が債務者とその家族という経済的利害共同体によって支配されていた点に注目し、債権者は会社に対しても債権弁済を要求することができると判示しました。

 

「背後にある個人と会社の株主らが経済的利害関係を共にするなど、個人が新たに設立した会社を実質的に運営し、自由に利用できる支配的地位にあると認められ、会社設立と関連した個人の資産変動の内訳、特に、個人の資産が設立された会社に移転されたときに、それに対して正当な対価が支払われたかどうか、個人の資産が会社に流用されたかどうかと、その程度および第三者に対する会社の債務負担の有無とその負担の経緯などを総合的に考慮して、会社と個人が別個の人格体であるとして会社設立前の個人の債務負担行為に対する会社の責任を否認することが著しく正義と衡平に反すると認められるときには、会社に対し、会社設立前に個人が負担した債務の履行を請求することが可能であるとしなければならない。」(大法院2021年4月15日宣告2019ダ293449判決)

 

結局、これは形式と実質が遊離する状況で、法人制度が要求する法的安定性と利害関係者らの間の具体的な定義・公平をどのように調和させるかという問題です。有限責任の原則が法人格制度の重要な役割を果たしたことは事実ですが、それが絶対的に守らなければならない原則というわけではなく、上位の法原則である正義・衡平という枠内でのみ機能しなければならないというのは当然のことです。そういった観点から見れば、法人格否認法理の逆適用そのものは認めながら、その適用範囲を制限的に解釈した大法院の立場は妥当であると考えられます。

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