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テレワークを導入するにあたって

弁護士 笹沼永浩

日本では、コロナ第5波が落ち着き、緊急事態宣言が解除されました。しかし、世界的にみると、特にイギリスやロシアでは感染者は増加傾向にあり、日本においても、ハロウィンの関連イベントやクリスマス、年末年始の帰省などで人々の流れが活発化することは必至であるため、第6波の懸念もささやかれているところです。さらに、某企業のアンケートでは、新卒就活生の約6割がテレワーク勤務が可能かを重視するとの結果になったそうです。

コロナ禍に突入してから1年半以上経過し、急速にテレワークの導入が進みましたが、その実施率は、日本全体としては、65.0%の企業が導入するにとどまり(東京都産業労働局 2021年9月3日)、まだまだテレワークの完全導入までは途上といったところです。そこで、改めてテレワークについて、企業側がなすべきことを振り返っておきましょう。

テレワークを導入するにあたって、最も気になるのが、新たに就業規則に定めることが必要なのか、ではないしょうか。結論からいうと、「就業場所」は就業規則の必要的記載事項(労基法89条)ではないため、新たにテレワークを実施するために就業規則を改正する必要はありません。もっとも、「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項」を就業規則に記載しなければなりません(労基法89条5号)。在宅勤務を導入している企業のほとんどは、ノートパソコン等の情報通信機器を、企業から貸与し、使用させていることと思いますが、仮に、この情報通信機器を従業員の負担で購入させる場合は、その旨を就業規則に記載しなければならないということです。また、通信回線については、すでに従業員個人が契約しているものをそのまま利用させるケースが多いですが、テレワーク導入によって通信回線の利用料金の負担が増大する等した場合には、テレワークに伴う経済的負担となるため、その旨を就業規則に定めることが必要となります。

一方で、新規で従業員を採用しようとする場合や、有期労働契約を更新する場合で、その採用直後や更新直後からテレワークでの業務を行わせる際は、書面交付等の方法で「就業の場所」としてテレワークを行う場所を明示しなければなりません。労基法15条・労基則5条1項1号の3が、労働契約の締結に際し「雇入れ直後の就業の場所」を書面交付等の方法で明示することを要求しているためです。

ところで、就業規則に何ら記載がない場合に、在宅勤務を命じることは可能なのでしょうか。この点について、会社は、従業員に対し、従業員の労務の提供に関する指揮命令権を有しています。この指揮命令権に基づき、原則として、会社には従業員の「就業の場所」を決定、変更する権限があり、就業規則における根拠規定がなくとも、在宅勤務を命じることは当然に可能であると考えられています。もっとも、就業規則や労働契約によって、「就業の場所」を「特定の事業場」に限定している場合でも、在宅勤務の命令をすることはできるのかという問題があります。こちらについて、「特定の事業場」に限定している場合であっても、在宅勤務を命じることは可能と考えてよいでしょう。一方で、ここは争いの余地がある問題でといわれていますので、テレワークを命じることができる旨の就業規則・個別合意があった方が安心といえます。なお、ここでさらに注意をしておきたいのは、会社の従業員に対する指揮命令権の行使は、その「必要性」と「従業員に生じる不利益」のバランスを失していると、権利濫用として無効となるリスクもあるということです。例えば、新たにPCを購入させる等、対象従業員に過大な負担を強いるような在宅勤務の命令は、「従業員に生じる不利益」の程度が大きく、権利濫用とされるリスクが大きいため、在宅勤務を命じるのであれば、その費用は会社負担とするのが無難であるといえるでしょう。

以上のとおり、コロナ禍に突入したことを機に一気に広まったテレワークですが、企業としては様々な手当てを必要とする可能性があります。まだ導入できていない企業も、導入したは良いものの何らの手当てもできていない企業もあるかと思います。上記に述べた以外にも、テレワークに付随する様々な問題がありますので、まずはお気軽に弊所までご相談ください。

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