弁護士 裵  薫

 世間の皆さんの殆どの方は、裁判官、検察官、弁護士など法律実務家の仕事は法律を解釈し適用することだと思っている。私も弁護士になって実務に着くまではそのようにイメージしていたし、司法試験の内容も法律解釈問題なので、受験生は法律解釈だけを勉強して、法律実務家になっている。
 ところが、実際の弁護士の仕事の90%以上は、多種多数の証拠を集めて評価し、そこから形成される事実を推定ないし認定することである。最近、社会的に座視し得ない問題が起こると、問題を起こした組織とは異なる独立した第三者委員会を設置し、弁護士が委員に選任されて事実の調査を行うことになったという報道が少なくない。これは弁護士が証拠集めと事実認定のプロだからである。
 では、証拠とは何か?刑事事件では厳格に証拠が制限されているが、民事事件では、すべてが証拠になり得る(但し、その証拠に如何ほどの証明力があるのかは別問題である。)。最近、書面が無いことを持って、証拠が無く、よって事実がないと強弁する人がいるが、証言も立派な証拠である。経験豊富な実務家であれば、その証言に信憑性があるか否かは証言内容の具体性、リアリティ、証言者の表情、態度などから、十分に判断可能である。むしろ、書面よりも証言の方がより表情豊かな真実を示してくれることが少なくない。
 先日の報道によると、中国では、経験豊富な裁判官不足を背景に、AIによる事実認定の研究が進められているそうである。コンピューターに人間では処理できない多くの経験則を覚えさせれば、事実認定の適正化は高まると思う。日本でも、経験豊かな裁判官は不足しており、かつ多忙であり、一つ一つの事件に時間をかけるのは容易ではない。よって、個人的にはAIによる裁判に賛成である。但し、AIの導き出した結論を人間が再検討する必要性は永遠に無くならないと思う。